フルMVNO化したIIJはiPhoneを取扱うか

フルMVNO化したIIJがiPhoneの取扱いを開始することはおおいにあり得る。

2016年8月29日にIIJは、NTTドコモに対してデータ通信に関する加入者管理機能(HLR/HSS)連携に関する申込みを行い、即日で当該申込みに関する承諾書を受理した。今後、IIJはフルMVNOとして2017年度中のサービス開始を目指していくという。(プレスリリース)

現在はライトMVNOであるIIJがフルMVNO化した暁には、iPhoneの取扱開始、すなわちビックカメラ等の店頭でIIJmioの契約を行い、その場でIIJmioのSIMがセットされたiPhoneを受け取れるようになる可能性は高いと考えている。ソフトバンク、KDDI、NTTドコモにつづく4社目のオペレータとして日本におけるiPhoneの取扱事業者となる可能性は高い。

その理由とは、iPhoneが日本で最も売れているスマートフォンだからである。日本におけるスマートフォンの販売シェアを見るとiPhoneはOS別シェアでは約50%であり、Androidは複数のメーカーから販売されているのに対してiPhoneはApple1社からのみの販売であることを勘案すると、日本で最も売れているスマートフォンはiPhone、ということになる。(調査時期は2015年8月から10月、データ出典元はカンター・ジャパンの調査データ)

個人向けモバイルサービスであるIIJmioの契約拡大(拡販)を考えた場合、iPhoneが最も注力すべき端末であることは言うまでもないし、iPhoneをライトMVNOである現在のIIJmioのSIMで使うことは可能であるものの、IIJmioのSIMで使われているiPhoneは、日本国内で契約されたiPhone全体から見ると、いまだごく僅かである。総務省の発表によれば、2015年12月末時点での移動系通信契約数の約7.2%がMVNO(IIJmioだけでなくOCNモバイルONE等他MVNOを含むMNOでない全MVNO)であり、単純に考えてその半数、すなわち約3~4%がiPhoneと考えられる。MVNO市場におけるIIJmioのシェアは約17%(2016年3月末時点、MM総研データによる)であるので、日本国内で契約されたiPhone全体の約0.5%~1%程度がIIJmio契約のSIMで使われているiPhoneであると考えられる。ライトMVNOのままでIIJmioのSIM契約を伸ばし続けるのは難しいものと考えている、それは、IIJmioのSIMをiPhoneで使うには、iPhoneユーザーの大半を占めると考えられる「普通の人」にとって高いハードルが存在するからである。ここでいう「普通の人」とは、スマートフォンを多数所有したり(以前IIJmioミーティングで堂前氏が使われた表現を借用すると、自宅にスマートフォンが多数転がっている人)、複数台のスマートフォンを常時持ち歩くような人ではなく、スマートフォン1台、もしくはスマートフォンとガラケーの2台を持ち歩く一般人を意味する。そのハードルとは以下である。

(1)iPhoneを自分で調達する。(Apple直販のSIMフリー版iPhoneを購入する、中古店で購入するなど)
(2)IIJmioを自分で契約する。(IIJmioのWebサイト、ビックカメラ等の店頭、契約用のパッケージを店頭もしくは通販で購入するなど)
(3)SIMを自分でiPhoneにセットし、iPhoneをアクティベートし、APN等を設定する。

こうしたハードルは、IIJがiPhoneの取扱いを開始すれば解消する。すなわち、ドコモ、KDDI、ソフトバンクのiPhone同様、ビックカメラ等の店頭でIIJmioのSIMサービス(モバイルサービス)を契約し、IIJmioのSIMがセットされ、アクティベート、APN設定等の済んだiPhoneをその場で受け取れるようになるからである。iPhoneの取扱いについては、おそらくIIJmioのサービス開始当初から課題にはなっていたものの、ライトMVNOでiPhoneを取り扱うのは無理だったのではと考えられる。フルMVNOになれば、電話番号の発番、SIMカードの発行等を自前で行えるようになり、iPhoneの取扱いも視野に入ってくる。

なお、iPhoneにはiPhoneの取扱い事業者(のみ)のAPN等設定情報が収められたキャリアプロファイルなるものがある。フルMVNO化したIIJmioのSIMをiPhoneで使う場合、iPhoneのキャリアプロファイルにIIJmio用の設定情報が入っていなくても大丈夫かどうか懸念されるが、iPhoneの取扱い事業者でない外国のMVNO各社のiPhone設定情報を調べてみると、キャリアプロファイルに情報が収められていないキャリアの場合、iPhoneには汎用の設定画面が出現し、APN、テザリング等の項目が設定できるようであり、さらに過去の事例を見ても、例えばドコモがiPhoneの取扱いを開始する前(iPhone4S, iPhone5などが販売されていた頃)であっても、SIMフリー版iPhoneにIIJmioなりドコモ契約のSIMを入れて使うことができていたことなどを勘案すると、iPhoneのキャリアプロファイルにフルMVNO版IIJmioの設定情報が入っていなくてもおそらく問題なく使えるものと考えられる。現行のライトMVNO版IIJmioのSIMはドコモのSIMであり、APN設定画面が出てくるかどうか、テザリング設定の項目等については、キャリアプロファイルのドコモ用の設定情報に左右されるが、フルMVNO版IIJmioのSIMはiPhoneから見ればIIJのSIMであり、APN設定、テザリングの可否等については、おそらく問題ないものと考えられる。すなわち、国際ローミングを含めて電話とデータ通信を使うことだけを考えた場合、キャリアプロファイルにフルMVNO版IIJmio用の設定情報を入れてもらうことは必須ではないし、キャリアプロファイルにフルMVNO版IIJmio用の設定情報を入れてもらうためだけにiPhoneの取扱い事業者になる必要はないものと考えられる。一方で、単なる電話とデータ通信だけにとどまらないフルMVNO版IIJmioのサービス設計、展開を考えた場合に、iPhoneのキャリアプロファイルにIIJmio用の設定情報を入れてもらいたいということはあるかもしれない。

いくらフルMVNOといっても、厳しい販売ノルマをオペレータに課すとされているAppleの提示した契約条件・販売条件をIIJが受け入れることが可能なのか、という疑問もあろう。しかしながら、MVNOがiPhoneを販売している事例は外国では存在するので、契約条件・販売条件でIIJとAppleが合意することはおおいにあり得ると考えている。

そればかりか、Apple側からIIJに歩み寄ることもあり得る。それは、iPhoneに対する厳しい環境変化である。日本以外の諸国での販売減、日本での総務省指導による端末代「実質0円」廃止に伴うiPhone離れの懸念、日本国内での格安SIMの台頭による廉価な端末の販売拡大である。iPhone7シリーズでわざわざ日本向けモデルA1779(iPhone7)、A1785(iPhone7 Plus)を用意し、Felica(NFC TypeF)、日本だけでしか使われていないLTEバンド11/21に対応したのも、Apple側の日本市場に対する危機感の表れなのではないか? その危機感から、日本初のフルMVNOとして事業を展開しようとしているIIJをiPhoneの取扱い事業者に迎え入れようと、契約条件・販売条件などでIIJ側に歩み寄ることはおおいにあり得る。

気になるのは、IIJがiPhoneの取扱いを開始する時期である。過去の事例を見ると、iPhoneの新製品発表に併せて、新規取扱い事業者が発表されてきているので、IIJがiPhoneの取扱い開始を発表するのも、iPhoneの新製品発表に併せてになるものと考えられる。前述のIIJのプレスリリースを読むと、2017年度中のフルMVNOの商用サービス開始を目指すとなっており、2017年秋の発表が想定されるiPhone7Sか、2018年秋のiPhone8、のいずれかの発表に併せて、IIJのiPhone取扱い開始が発表されると考えている。IIJであれば、2017年秋のiPhone7S発売までにデータ通信のみならず音声通話(音声通話網の相互接続)を含めてのフルMVNOサービス開始は可能であり、iPhone7S発表に併せてIIJがiPhoneの取扱い事業者に加わることはおおいにあり得ると考えている。

iPhone7S(もしくはiPhone8)の発表イベント、スクリーンに新製品が大きく映しだされ、特徴がアピールされた後、新規取扱い事業者の発表となり、IIJのロゴがスクリーンに大きく映し出され、日本における4社目のオペレータとしてIIJが加わることが大々的にアナウンスされるものと考える。さらにIIJの鈴木会長(もしくは堂前氏か佐々木氏。個人的は両氏のどちらかが新型iPhone発表会のステージに立つことに期待。)がステージ上でフィル・シラー上級副社長(もしくはティム・クックCEO)と握手するパフォーマンスがあれば楽しいが、おそらくここまでの演出がなされることはなかろう。

IIJがiPhoneの取扱いを開始した場合、果たしてIIJはiPhoneにSIMロックをかけるか否か? おそらく端末代金を分割払いにした場合は、日本ではiPhoneは非常に人気のある端末であり中古市場で高値で取引されており、代金を回収し損なうリスクを考慮してSIMロックをかけるものと考えているが、一方でIIJmioでは3大キャリアのような2年縛りの料金プランを採用していないことから、端末代金を完済すれば直ちにSIMロックを解除できるようになるものと考えている。3大キャリアのような、一定期間経過してからでないとSIMロック解除できない、となることはないのではないか?

フルMVNO版IIJmioのサービスが開始された場合、ライトMVNO版IIJmioの扱いがどうなるか気になるところであるが、まずライトMVNO版SIMが使えなくなることはないものと考えられる。それは、IIJがMVNEとしてサービスを提供しているDMM mobileなど他MVNOに対する配慮からである。IIJがMVNEとなっている各MVNOがライトMVNOのままでいくか、またはフルMVNOとしてサービスを展開していくかは各MVNOの判断に寄るところが大であり、IIJが一方的に「フルMVNOを開始したから、ライトMVNOのサービスは終了します」とすることはあまりにも高圧的であり、IIJに対する信頼を損なう要因になりかねない。一方で、ライトMVNO版IIJmio(契約先がIIJとなるもの)は契約済みのものについては引き続き使えるものの新規受付終了となり、IIJmio(契約先がIIJとなるもの)は時間をかけてフルMVNO版への一本化を進めるものと考えられる。

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